きょう、J-CASTに、本人も気づかない「トラウマ」幼少期の辛い記憶よみがえり抑鬱状態や不安障害という記事が出ました。EMDRを取りあげた、おとといのNHK総合テレビの「クローズアップ現代」、心と体を救う トラウマ治療最前線をまとめて紹介しています。
まとめて紹介といっても、あの番組は公式サイトに「放送まるごとチェック」がありますので、文字情報でチェックするならそれでかなり足りてしまいます。ですので、別の場所で別の記事にする意味がどのくらいあるのかは、よくわかりません。眼球運動のところだけを見るとあやしげに思われがちなEMDRが、広く理解される機会になるならありがたいことですが、こちらの記事には、やや気になるところもあります。
記事タイトルからして、誤解をまねくおそれがあるように思います。少し前の記事で、つらい経験が今のよろこびを高める可能性について紹介したところでしたが、ここでの事例は、「辛い記憶よみがえり」といっても、PTSDのフラッシュバックや、自閉症のタイムスリップ現象といった、つらい記憶が思い出され意識化されて苦しむことが主訴だったわけではありません。悪夢を見る13歳の症例は、J-CASTのほうでは取りあげられていません。
「アメリカの精神医学会は今年5月(2013年)、抑鬱状態や不安障害にトラウマが関わっているとの見解を示し、診断マニュアルを19年ぶりに改訂している。」というのも、適切ではないと思います。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-5(American Psychiatric Association著、American Psychiatric Publishing)は今年出ましたが、トラウマに関しては、PTSDを対象に含め、不安障害のひとつとして位置づけたDSM-Ⅲの時点で、「不安障害にトラウマが関わっている」体系化をしています。
「10年前に精神科の医師からうつ病と診断され、向うつ薬を使った治療を5年間続けた」とありますが、テレビ番組なので音しかわからないとしても、「抗うつ薬」でしょう。抗精神病薬と向精神薬とをまちがったら、いろいろな意味で大変なことになりますが、うつに立ち「向」かうというイメージでこう書いたのでしょうか。料理通信 2013年12月号(角川春樹事務所)の、金山康広のインタビュー記事で、「向かい入れる側のホテル」とあったのを思い出しました。
その女性の「なんか知らんけど」から始まる発言は、かぎかっこでくくってありますが、このJ-CAST記事と、番組公式サイトのほうとで、ややずれがあります。NHKオンデマンドでは、見逃し見放題の適用対象で再視聴できますが、後者のほうが、実際の発話に忠実だと思います。かぎかっこの始まりが欠けている「国谷フラッシュバックとよく言いますが、突然思い出すのですか」」など、もっと原形から遠いところもあります。iTunesではじめるクラシック音楽の愉しみ(音楽之友社)で、相場ひろが、編曲ものはオリジナルから離れるほどおもしろいと主張していますが、そのとおりに言ったように誤解される書き方は好ましくないと思います。「WHOによってEMDRは標準治療とされている」という奇妙な表現も、放送された中には登場しないようです。
番組では、発達障害や虐待とのからみへの言及もされています。スタジオの杉山登志郎・浜松医科大学特任教授が専門とするところです。子ども虐待という第四の発達障害(学習研究社)の著者ですし、先ほど触れたタイムスリップ現象も、杉山が考案した用語です。なお、「日本でも、和田一郎先生という方が、2012年の虐待のコストの試算をされまして、1兆6,000億円という結果が出ています。」と言っているのは、放送の2日前に朝日新聞が報じた、子ども虐待、社会的損失は年1.6兆円 家庭総研まとめのことでしょう。