生駒 忍

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若者の安定志向のデータと多重役割の拡張仮説

きょう、ハナクロに、安定したいなら「大企業への就職」ではなく「多職」を目指そう!という記事が出ました。

「仕事にやりがいを求める一方で、正社員になれないリスクに怯え、「安定したい」という願望を強く持つ若者が増えています。」と書き出されます。若者は本当にお金がないのか? 統計データが語る意外な真実(久我尚子著、光文社)を見ると、図表110ははっきりと、会社の選択基準における「一流会社だから」「会社の将来性を考えて」の低下を示していて、矛盾して見えます。ですが、新入社員を対象としたデータですので、理想の一流、安定にまでは手がとどかなかった新人たちを相当に含むでしょう。つまり、自己知覚理論や認知的不協和理論の出番です。先ほどの若者は本当にお金がないのか?は、「就職人気企業ランキング」も紹介していて、こちらはみごとなほどに「国内志向や安定志向」ですし、入社後に「入社した会社に固執する傾向が強まっている」ことも示されています。

「なぜ、多職が安定につながる理由として、岡田氏は次のように説明しています。」として展開される、「仕事の量も、収入も、評価も、動的安定を目指す」やり方は、つまりはリスク分散、分散投資ともいえます。「愛人リスト」もその延長線上の発想かどうかはともかくとしても、「長い間同じ環境で、決まり切った仕事をしていると、「自分にはこの道しか生き延びる術がない」と思ってしまいがち。」、こうなるリスクをさける点では、マーケット感覚を身につけよう(ちきりん著、ダイヤモンド社)の図表34の議論にも近いかもしれません。

「自分の得意分野や適正を発見できたり、キャリアップの機会にも恵まれそう」、「とはいえ、何十種類も仕事を掛け持ちするとは、かなりストレスフルな生活になりそうな印象があります。」、そうだと思います。あちこちから仕事をいただいている私には、少なくとも後半は、とてもうなずけるところです。一方で、心理学的には、あれこれをかかえることによるよい影響も、広く認められています。多重役割の研究は、不足仮説よりも、拡張仮説を支持しているのです。

「この働き方がゆとり世代に定着するようになるには、少し時間がかかりそうです。」とあります。若者は遅れている、ですがいずれは定着するとみているようです。仕事の数をどういう単位で数えるかにもよりますが、「多職」はむしろ、昔ながらのはたらき方のようにも思います。あるいは、くらし方と表現したほうがよいかもしれません。かつての農家では、農業とひとくくりにされる中にも、水路の保守も家畜の管理も山の手いれもと、さまざまな作業があり、雨の日、日没後、農閑期にはまた別のことをしますし、村の自治や普請もと、くらし全体が「多職」でした。商店や職人仕事などの自営業も、近いところがあるでしょう。生活時間の中で、ぴったりお金と対応する時間としての仕事が区別されたくらしのほうが、後から現れたのです。そういえば、いつでも、逆に考えるとうまくいく。もっと元気が出る71のヒント(川北義則著、PHP研究所)の、「古いものでも「新しい商品」になりうる」という節には、「最近東京で人気の食べ物の一つにさぬきうどんがある。若い連中がうどんに夢中になるなど、ちょっと考えられない現象だが、マスコミがはやした効果もあって「新しい外食メニュー」として定着してきた。」とあります。