生駒 忍

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脅迫はがきを送った係長と子どもの統合失調症

きょう、産経ニュースに、保釈中の出雲市係長が死亡という記事が出ました。

短くかんたんに書かれていて、そのせいもあって、誤解をまねくところがあります。まず、1文目の「毒を入れると書いたはがき」は、2文目の「「あなたの人生なんかめちゃくちゃにしてやる」などと記したはがき」とは、送り先が異なります。2文目は「同市の女性職員方」へでしたが、毒のほうは、1か月前に産経ニュースに出た記事、「弁当に毒」とはがき郵送し業務妨害疑い 出雲市職員を逮捕によれば、「市内で弁当を販売している社会福祉法人に、市役所の女性職員を差出人として「弁当に毒薬を入れる」と印字したはがきを郵送」したものになります。「あなたの人生なんかめちゃくちゃにしてやる」とはがき 昇進ねたみ同僚の女性を脅迫容疑、出雲市議会事務局49歳係長を再逮捕には、「容疑者は9月、弁当に毒を入れると記したはがきを、市の女性職員の名をかたって弁当販売の関係先に送ったなどとして偽計業務妨害容疑で逮捕」とあり、送り先がややぼかされていますが、同一と考えてよいでしょう。なお、この書き方では、送ったのが9月であるように誤解するかもしれません。毒はがきを送ったのは7月で、その後出頭、逮捕されたのが9月です。

「あなたの人生なんかめちゃくちゃにしてやる」の帰結が、書いた本人の死だったとすれば、おとといの記事で触れた「ブーメラン」かもしれませんが、まずはご冥福をいのります。ギリシャ悲劇によくある、あるいは、実験刑事トトリの第3話での「あんたの人生、めちゃくちゃにしてやる」のような、宣告された側がひっくり返そうと力技に出たのに、裏目に出るなどして宣告のとおりになってしまうパターンではなく、宣告した側にひっくり返ってしまったように見えます。ちなみに、あの第3話の、婚約者の絶対音感がかぎになった推理は、おそらく湿度に左右されやすい中音域を想像したのだとは思いますが、ずれを表現した単位がセントではなくヘルツ、通り雨でまともな建物の室内の湿度がどれほどゆらぐか、絶対的な正しい周波数があるような前提など、あくまでフィクションとして、割りきって楽しむのがよさそうです。

「脅迫容疑で今月14日に再逮捕、20日に保釈」、これも誤解をまねくと思います。保釈は起訴後にしかありませんので、この再逮捕の案件ではなく、すでに起訴された毒はがき事件のほうでの保釈でしょう。それとも、釈放と混同しているのでしょうか。あるいは、再逮捕という表現も、刑事訴訟法にはないものなので、気になる人もいるでしょう。刑事訴訟法199条3項などとのからみで議論になる、いわゆる再逮捕・再勾留禁止の原則は、一般に使われる再逮捕とは別の意味の用語です。

その再逮捕の記事のタイトルには、「49歳係長」と入っていて、このときだけなぜ年齢をと思った人もいるでしょう。毒はがきでの逮捕のときは、48歳と報じられましたので、単にその間に誕生日が来ただけなのですが、それとは別の人物の犯罪のように見えてしまうかもしれません。別のように見せて、不祥事を起こす公務員が多く見えるような印象づくりなのか、報道機関は誕生日まで把握していますというアピールなのか、よくわかりませんでした。

誕生日の把握で思い出したのが、Togetterにきのう出た記事、自らのパクツイをトレースだと言い張る自称イラストレーター兼自称アニメーターです。次々にぼろが出ても、ああ言えばこう言うとばかりに抵抗していましたが、なりすましたターゲットの誕生日を大きくまちがえた上に、それともまったく異なる誕生日の免許証を出す、この手の人の中でも異色の抗戦が、とても印象的でした。堂々とおかしなやり方を見せつづけて、相手がペースをくずせば形勢逆転につながるという、卓球王国 2014年12月号(卓球王国)の、伊藤条太の連載の冒頭にあるエピソードのような戦術でもなさそうです。こころの問題をうたがう指摘も、コメント欄にいくつも出ていますが、少なくとも典型的な統合失調症が原因で、このような丁々発止になるとは、考えにくいでしょう。ですが、免許証が親のものだと考えたときに、統合失調症の罹患がありえない年齢だということはありません。すぐには診断がつかないことも多いとされますが、子どもも発症します。やや古いのですが、Schizophr. Bull.第20巻のChildhood-onset schizophrenia: History of the concept and recent studiesが、すでにフリーで公開されていますので、ご覧ください。

それで思い出したのが、Smartザテレビジョンに出た記事、ハウス加賀谷が“統合失調症の本当のドラマ”に挑戦!です。「ハウス加賀谷は12歳のときに統合失調症を発症し、入退院を繰り返してきた経歴を持つ。」とあって、かなり早い印象を受けますが、統合失調症がやってきた(ハウス加賀谷・松本キック著、イースト・プレス)では、発症時は中2、13から14歳だったはずです。それほどのライフイベントの記憶が年単位でずれるなど、つまりは寛解などうそだと思った人もいるかもしれませんが、ソースモニタリングの誤りとしては、健常者でも見られる範囲でしょう。クラシックプレミアム 創刊特別号(小学館)には、文学者の堀江敏幸が、同じく2年間のずれを起こした、虚偽の記憶の体験を書いています。