生駒 忍

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モネよりピカソを好む乳児と声優の「代表作」

きょう、It Mamaに、なんと!赤ちゃんは共通して「ピカソの絵が好き」と判明!?という記事が出ました。Psychol. Aesthet. Creat. Arts第5巻の、What is it about Picasso? Infants' categorical and discriminatory abilities in the visual arts.を取りあげたものです。

「子どもがグズりそうでなかなか美術館などに出かられていない家庭もあるかも」とあります。ふと、枕草子大事典(勉誠出版)によれば七一段から七七段までのぶれがある、「ありがたきもの」を思い出しました。七二段としたうつくしきもの 枕草子(清川妙著、小学館)は、銀は見ばえ、鉄は実用性で、清少納言の主張は「外見も内容もいいってことは、ほんとうにむつかしいこと。」だとしました。その主張から750年ほどして、小野小町の子孫の家で、鉄であったことから悪事が露見するお話ができました。その50年後に創業された木屋の毛抜 團十郎はステンレス製ですが、磁性はあるのでしょうか。

さて、「キュビスムの巨匠『ピカソ』と印象派の代表『モネ』」とあります。「巨匠」と「代表」とのどちらを使っても、大きなまちがいではなさそうですが、使いわけてあります。どちらかといえば、表現として無難なのは「巨匠」でしょう。日本語版ウィキペディアのTemplate:声優では、荒れやすいことなどから、「代表作」が取りのぞかれました。

「9ヶ月の赤ちゃん」が「ちゃんと他の絵とのテイストの差を見分けていることが先ずは驚きですよね。」、その気持ちはわかります。ですが、単に弁別ができるという程度であれば、ヒトでなくてもできます。ピカソを見わけるハト ヒトの認知、動物の認知(渡辺茂著、日本放送出版協会)を見てください。もちろん、ほかの動物が、人間と同じように美を感じている保証はありません。「大人の領域とされる芸術作品にもリアクションできるほどの明らかな好み、芸術的センスが赤ちゃんにはあるのです。」とあるのは、そう考えると言いすぎで、理解や「芸術的センス」までは保証されません。The Japan Newsの記事、Learning to Look at Faces and Be Looked atで、市川寛子・中央大学助教が、新生児が顔を注視するとされる現象に示した解釈も、参考になるでしょう。

「今回の実験で分かったのは、赤ちゃんは可愛らしい絵だけを好むわけではないということ。」、注視を好みとイコールでとらえれば、これはいえそうです。ですが、「可愛らしい描写が特徴的」な絵本を持ちだして、「実際に赤ちゃんが好むのはそういったテイストではないかもしれない」、ここは気になります。キュビスム絵画を「そういったテイスト」よりも相対的に好むかどうかは、試してみないとわかりませんが、「そういったテイスト」が絶対的に好みではないとは、考えにくいと思います。

「芸術に触れるのに、早過ぎるということはないのですね。」とあるのも、少々言いすぎかもしれませんが、早すぎると悪い影響があるとも考えにくいでしょう。もし、悪影響があるのだとしたら、この実験の参加者がかわいそうです。また、幼いころから本物に触れることがどのくらいよいのかは、実証的にははっきりしないところがありますが、実は本物をわかっていない親が、まだ早いなどと逃げるのは、よい態度ではないでしょう。子どもの成長のために、手ぬきはよくありません。そういえば、実践につながる教育相談(黒田祐二編、北樹出版)には、「ここで重要なのはすべの子どもが成長することです。」とありました。