きょう、Economic Newsに、日本が世界有数の「がん大国」である理由という記事が出ました。
「多くの先進国ではがんによる死亡率が減少しており、死亡率が上昇しているのは日本だけ」、「理由の1つは、日本が世界一の長寿国であること。」、誤解をまねく書き方だと思います。長寿であることと高い死亡率との対応は理解できますが、長寿であるから上昇していくというのは、飛躍があります。「高齢化にともなって高齢者の数が増える」、これも奇妙な書き方で、高齢者の数が全人口に占める割合が増えることであらわれるのが高齢化ですが、この高齢化で、がんで死ぬ率の高い世代が人口中で多くを占めるようになるほど、がんによる死亡率は上昇します。適切な国際比較として、がん研のがん情報サービスの、がん死亡率の5か国比較:フランス、イタリア、日本、イギリスおよびアメリカ 全悪性新生物 -WHO死亡統計データベースより(1960-2000)を見てください。
「もう1つの大きな要因は、海外と比べて圧倒的に低い、がん検診の受診率である。」、これももちろん、年齢構成の影響を受けはしますが、そこを考えるまでもないくらいに、日本の低さは突出しています。ですが、記事にある数字は、やや古いようです。「子宮頸がんはアメリカでは84%が受診している」とありますが、1日から始まった、平成26年度がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーンで示された率は、85.9%です。「乳がんでもアメリカやイギリスが7割を超えているのに対して、日本は24%と低くなっている。」などとありますので、平成25年度集中キャンペーンのほうを見たのかもしれません。日本の値がどちらでも同じですが、ここは同じ2009年の統計ですので、同じでおかしくはありません。がん情報サービスのがん検診受診率を見ると、調べ方が同じではないのですが、確実に改善の傾向がうかがえます。今年度の集中キャンペーンのサイトを、昨年度と見くらべると、乳がんにも子宮がんにも倍増したように見えますが、グラフ下の注を見のがさないでください。また、国際比較グラフについても、どちらもタイトルに「2006年」とあったり、出所が「OECD Health Date」と書かれていたりと、おかしなところがありますし、いろいろと注意の求められるサイトのようです。
「がん患者の中で一番多い胃がんは、進行すれば5年生存率が半数を切るが、ごく初期の段階では9割以上が完治する。」とあります。がん情報サービスで胃がんを見ると、きのう数値の更新があったところですが、「進行すれば」はTNM分類によるⅢ期以降、「ごく初期の段階」はⅠ期と考えると、数値との対応がとれます。
わが国の受診率の低さについて、「内閣府の調査では、多くの人が「時間がない」ことを理由としていた。」とします。世論調査報告書 平成25年1月調査 がん対策に関する世論調査を確認すると、「受ける時間がないから」が47.4%で、1位であるとわかります。すると、時間があるくらし方と、がん検診の受診行動とは、対応するでしょうか。ですが、3位には、「費用がかかり経済的にも負担になるから」があります。同じくEconomic Newsにきょう出た記事、非正規雇用者57%が自活できないほど低収入は、誤解をまねきかねないタイトルが気になりますが、労働時間もお金も多くはない人が、若い世代にかなりいることをうかがわせます。非正規雇用では、被用者保険や安衛法の健康診断にも手が届きにくいですし、がん検診まではなかなかということになりそうです。
「「がんが見つかるのが怖い」という意見も」、これは内閣府調査の2位、「がんであると分かるのが怖いから」でしょう。早く見れば見るほどましな着地ができそうなのに見たくない現実を見ないようにする、こういう感覚は、さまざまな場面に見られます。北千住「111歳」年金不正受給事件も、単なるお金目あてというよりはそういう色あいの強い事件でしたし、CARPE・FIDEMの有名なコラム、不登校のまま何もしなかったらどうなるのか?へのネガティブな反応も、いつでもかんたんに復帰できるのにうそをつくなという指弾ではなく、とにかく見せるなという感情的な反発ばかりだったように思います。自分に見えていないものは存在しないという、いないいないばあをおもしろがる幼児のような認識なのでしょうか。開けなければ死んでいても生と重なっているという、シュレディンガーのネコのイメージなのでしょうか。消費者問題の苦しみの記事で触れた、高城れにや岡本杏理のポジティブな感覚とはまた異なるように思えますし、心理学的にも興味深いところです。
この流れから、がん検診を受けようと呼びかけて記事を終えるのかと思うと、その前にひとひねりがあります。「1回の採血で13種類ものがんを発見できる診断システムの開発」のお話が入って、それからです。これが興味をひくことで、結論の説教くささがうすまったように思います。ハリー・クバート事件 下(J. ディケール作、東京創元社)の、「4 アラバマのわが家」のとびらのメッセージを思い出しました。