生駒 忍

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デング熱フィーバーへの批判と反応が悪い人

きょう、アピタルに、ある病気に関する報道への疑問という記事が出ました。

タイトルで「ある病気」とぼかされたのは、デング熱です。「軽微な病気」であれば「一時的に会社を休むなどの影響はあるかもしれませんけど、入院や慢性疾患などでなければ、人生が大きく変わるほどのことはほとんどの場合ありませんよね。」、厚労省は「デング熱の予後は比較的良好です」としていて、よってデング熱くらいで「人生が変わることもなく」、こんな大さわぎはおかしいというのが、筆者の主張です。デング出血熱まで含めなくても、軽微とは言いきれない感染症だという見方もあると思いますが、二分脊椎にくらべればはるかに軽微だと返されたら、皆さんは反論できますでしょうか。

「デング熱の疾患の問題ではなく、感染ということに対する危機意識の薄さなどが問題なのだと思うのです。」とします。ですが、筆者が批判する報道や社会的反応は、これまでうすかった危機意識の、改善のあらわれなのではないでしょうか。もちろん、東大院生の買春の記事で触れたSFTSのような、はるかに死亡率の高い感染症との不均衡は奇妙なのですが、抽象論で感染症への警戒をうったえてもなかなか届きませんので、デング熱への注目から感染症への意識や理解が高まれば、本質的な問題へのアプローチにつながります。

「職場で「蚊が飛んでいる!」などと大騒ぎして、激しく殺虫剤をまいている方を拝見すると、私はつい冷たい視線を送ってしまうのです。」、心情的には理解できます。気になるのは、ここに書いてさしつかえはないのかというところです。職場というのは、みのりCafeのことでしょうか。大さわぎする客に、店主が冷たい視線をあびせるのは、めずらしいことではありませんし、飲食店で薬剤をまかれたら、もっと強く反応してもいいくらいです。ですが、一般的には、そういう迷惑客のエピソードを、有名サイトに書くことは、よいこととは考えにくいようにも感じます。それとも、さわいだのはスタッフのほうでしょうか。それでも、店主の自分とは意識がずれた従業員の行いを公開するのは、自主退職をうながすねらいなのかもしれませんが、そういうやり方をするお店には、私はあまり行きたいとは思えません。

「一時的に仕事も休むことになるかもしれません。」の問題を軽くとらえているようなところも、評価が分かれそうです。筆者は、無拠出年金も社会手当ももらい続けることができますし、身体障害者手帳ですので佐村河内事件のような場合でもなければ取りあげられることはありませんが、そういった権利をもたない人にとっては、お仕事ができなくなることは、収入がゼロになる危険と直結します。雇用保険の対象外のはたらき方をしている人も、世の中にはたくさんいます。また、会社づとめであれば、病気で予告なく抜けた人のお仕事を、まわりが何とかして埋めないといけませんので、とても迷惑をかけることになります。埋めきれなければ、お仕事が回らなくなって、会社がまるごとかたむいてしまうかもしれません。

自分のまわりに迷惑をかけることの問題も、あまり考えていないようです。交通事故のたとえを使って、めったに死なないデング熱の予防に必死になるのはばかげていると主張したいようですが、感染症がどういうものか、理解できていないのかもしれません。デング熱にかかることは、自分がしばらく苦しむだけではなく、ほかの人にも感染させて苦しめ、そこからさらに広がって苦しみを広げていく可能性をもちます。基本的には、蚊に刺されて感染するのですから、その人がまた刺されない保証はなく、そこからほかの人へと病気を、苦しみを広げてしまいます。また、報道ではありえないことになっていますが、人から人への感染も、ごく低い確率でですが起こります。垂直感染もあります。物心つく前に免疫をもらえるのだから、むしろしあわせだとでも考えるのでしょうか。

「そろそろその報道スタイルを変えるか、本質にしっかりと切り込んで社会提言するか、あるいはエボラ出血熱のようにもっと人生を変えてしまう可能性が高い病気などに対象を切り替えるか……しませんか?」と提案します。どこで感染者が出ました、これで何人目です、こんな病気なのでここに気をつけましょう、という紋切り型の反復の意味の薄さには、同感です。ですが、「本質にしっかりと切り込んで社会提言」、これはどんなイメージなのでしょうか。かかってもたぶん死にません、感染源の公園に立ちいらせない行政はおかしい、と言ってほしいのでしょうか。私も、セアカゴケグモ騒動などを思い出しながら、医学的なリスクの視点ではやや過剰な面を感じますが、報道側もわかっていてこう報じているのだと思います。連日のエボラ出血熱の報道が不安を高めたところに、続いて出てきたことで、イメージが混ざっている視聴者も出ているでしょうし、関心が存在する以上は、ニュースバリューがあるのです。また、報じなくなれば、かくしている、政府の圧力だ、製薬会社の陰謀だと、迷惑な解釈をあびることでしょう。

「twitterでハッシュタグを #患者道場 としてご投稿していただければ」と呼びかけます。私なら「ご投稿いただければ」と書きたいことはともかくとしても、どんな議論が展開されているのかと思い、見てみたところ、過去の一連の連載まで含めて、#患者道場にはわずかしか反応がないようです。そういえば、あたりまえだけどなかなかできない 教え方のルール(田中省三著、明日香出版社)には、「反応が悪い人」への教え方もありました。