生駒 忍

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万引き防止顔認識システムの報道と会社名

きょう、Business Journalに、読売新聞記事に捏造の疑い、取材対象者から抗議受けた記者は「いい宣伝になったでしょ?」という記事が出ました。万引き犯顔情報共有の騒動について、渦中の会社の担当者へのインタビューを行い、発端をつくった新聞記者の行いに疑問を投げかけるものです。

筆者は、会社社長で「ブラック企業アナリスト」として知られる人物です。今回は、ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない(黒井勇人著、新潮社)以降の意味での「ブラック企業」ではなく、法にそむく行為や、少なくとも社会通念上問題のある行為で事業を行う、もともとの意味での「ブラック企業」の方向性に近い話題です。

7点にわたる「読売新聞記事の内容について、事実と異なる点」を見ると、記事がこの会社への取材にもとづく内容であったとは言いがたいと言わざるをえません。ここまでですと、特に(2)や(3)からは、渦中の企業への取材はまったく記事に使われず、実はいろいろとそっくりな別の企業を取りあげたところだけが記事になったようにも見えます。

それで気になって、東京ブレイキングニュースにおととい出た記事、客の顔情報115店が無断共有!? 万引き防止システムの怖い落とし穴を読みなおしてみました。読売記事の騒動にあわせた記事だろうと思いますが、こちらには「万引きすると疑われて困っているという人物」の被害事例があります。これがあの会社のものと対応するかというと、手がかりになる情報がありません。そのショッピングモールが首都圏にあれば、先ほどの(2)に反するので違うといえるのですが、近くに人家があり、駐車場があり、「店員や保安員、警備員など」がいるという程度しか情報がありません。また、いつからなのかもわからないので、(3)も使えません。筆者は「確かに顔認証装置を導入している店」としますが、店の責任者はそのような装置の設置を認めていないとあるので、この段階ではっきりせず、被害妄想ではないとも言いきれません。発言小町でここのところアクセスを集めつづける人気記事、上階の住人が天井越しに話しかけてくるを思い出しました。ですが、こちらの筆者は、万引きGメンは見た!(伊東ゆう著、河出書房新社)の著者でもあるすご腕の万引きGメンとのことですので、信用できるという見方もあるでしょう。ニッチー!の記事、万引きGメンに聞く「こいつ、やるな」の特徴とは?によれば、「犯人が歩いているときのヒジの動きだけでわかる事も」、それどころか、「伊東さんは店の外観を見ただけで、その店に万引き犯がいるかいないかわかるという。」というほどなのです。ですが、だからこそ、最後には警察のシステムまであわせてネガティブな印象をもたせる、ネオ・ラッダイト的な記事を書いたと考える人もいるかもしれません。今回のBusiness Journalの記事は、「日頃から万引き被害に苦しむ店舗の側からしてみれば、今回読売新聞が問題視しているようなシステムがあれば、これまで対策に割いていた余計な人件費や経費をもっと生産的な活動に回すことができ、メリットが大きい」と指摘し、万引きの害について、「まさに、犯罪によって、国民の働く機会が失われているといえよう。」としますが、万引きGメンから見れば、自分のはたらく機会が機械にとられてしまいかねないのです。

さて、今回の記事で気になったのは、ひとつは読売側への取材がないことです。SAPIO 2014年5月号(小学館)の記事、「原因追及 「慰安婦問題の火付け役」に全20問を送付! 朝日新聞は歴史的大誤報にどう答えたか」の朝日のように、形式的な返答かもしれませんが、形式として向こうにも聞いたかたちをとれると、よりかたちがととのったように思います。そしてもうひとつは、会社名のふせ方です。「「NAVERまとめ」や「2ちゃんねる」などでも「名古屋市内のソフト開発会社」とみられる企業名が挙げられ、ちょっとした炎上状態」と、会社名がネット上で話題になったことを示しながらも、インタビューの導入では「名古屋市内のソフトウェア開発会社」(以下、A社)の担当者である畠山公治氏」と、実名と思われる担当者名のほうを出して、会社名はふせます。ですが、新旧2ちゃんねるを探しまわる必要はなく、この氏名、「今年2月14日のプレスリリース」の存在、さらには他者の記事の紹介で、もう明かしたようなものです。「いい宣伝になったでしょ?」への皮肉をこめて、ふせたようでそうでない書き方をしたのでしょうか。mama★staにきのう出た記事、うんこって言葉で小一時間笑えるの、けさ6時ごろについたコメントを思い出しました。