生駒 忍

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パニック障害の疫学と明るい安西ひろこの写真

きょう、JIJICOに、芸能人は「パニック障害」になりやすい?という記事が出ました。書いたのは、ユング派分析家資格のある精神科医です。

1月にyuiについて、女性自身 2月11日号(光文社)が「パニック障害の疑いも」「酒と薬で緊急入院」と報じたことを受けての記事かとも思いましたが、それにしては遅いですし、yuiを含めて芸能人の名前はどこにもなく、人名は「フロイトやユングの「精神分析療法」」しか登場しません。芸能人とのかかわりに触れた分量も少なく、パニック障害の一般的な説明に、ユング派の視点を少し足したような内容です。発生メカニズムに関しては、「きっかけは、何かでせっぱつまっているときで、過労、睡眠不足も伴っています。」「パニック発作とは、明らかな原因がないのに、わけのわからない緊急反応が突然に起こってくる状態」「原因は、こうした環境因のほかに、遺伝的要素や生育史上の傷つきなど、さまざまなものが複合」「脳の緊急反応をつかさどる部位の機能的異常も」「パニックの深層にある不安の源泉とは、患者が現在の生き方で後回しにしてきた大切なもの」と、いろいろならべますが、クラークの認知モデルは落とされました。

「パニック障害は、うつに次いで精神科でよく見られる疾患です。」とありますが、エビデンスはありますでしょうか。患者調査にもとづく有名なデータは、「みんなのメンタルヘルス」の精神疾患のデータでも見られますが、パニック障害の数までの細分化はされていません。「こころの健康についての疫学調査に関する研究」総括研究報告書にあるWMH日本調査2002-2006の知見では、パニック障害の生涯有病率は0.8%、不安障害の受診率の低さもわかりますので、2位なのか疑問に思うところもあります。

先ほど、yuiの名前を挙げましたが、パニック障害に苦しんだ芸能人でもっと有名なのは、安西ひろこでしょう。バルドーの告白(安西ひろこ著、角川春樹事務所)は、淡々と書かれる暗いできごと、あっけらかんとした本人のキャラクター、ほんとうに明るい写真の対比が独特な一冊ですが、パニック障害が重かったころの体験のところは、すさまじいものでした。ですが、アゴラフォビア以外にも、パニック障害そのものの症状とは考えにくいものも重なったように見えますので、これ一冊でパニック障害をわかったつもりになられては困ります。そういえば、間もなく青山学院大学に入学すると思われる人が、きょう、ishikiのブログというブログを立ち上げて、最初の記事で図解雑学 心理学入門(松本桂樹・久能徹監修、ナツメ社)を取りあげ、「けれど、正直なところ、この本だけで心理学を分かった気になるのは難しいと思う。」と書きました。なお、その記事は、もう削除されました。