生駒 忍

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いばらキッスはスワンカフェの目玉でしょうか

きょう、フィールドプロモーションニュースに、障がい者とともに生きるスワンカフェ いちごスイーツフェア開催という記事が出ました。近々開催される、スワンカフェ銀座店のフェアの紹介です。

スワンカフェのことは、専門分野の関係で当然知ってはいますが、実はまだ、入ったことがありません。銀座店はあの立地で、いわゆる銀座からはやや遠く、私のくらしの中では、通りかかる場所ではないのです。一方で、社会福祉を意識しながらわざわざ行くのも、創業理念になじみにくいように思ってしまいます。食べログの記事でも、福祉を前面に出さない、ふつうのカフェ、ふつうの労働の場と見られていることがわかります。経営はロマンだ!(小倉昌男著、日本経済新聞社)に自身で書いたように、おかしな規制や権益とは本気でたたかった創業者らしく、市場の競争の中にノーマライゼーションを体現したところなのです。そういえば、タウンニュース戸塚区版にきょう出た記事、「障がい者美術館」に150点 きょう17時までは投票もは、クイズダービーのような点数ではなく、約150点が展示された美術展の紹介ですが、「気に入った作品を一つ選び、会場に設置された投票用紙で投票できる。上位入賞作品は展示期間終了後も会場内に掲示される予定。」と、むき出しの競争システムを導入したのが独特です。それでいて、展覧会の名称は「みんなちがっていいんだよ」にしたところに、バランス感覚を感じます。

さて、今回のスワンカフェの記事を読んで、なんとなく既視感を感じた人も、あるいははっきりと、この前読んだあれだと気づいた人も、いるだろうと思います。銀座経済新聞に出た記事、銀座スワンカフェでいちごスイーツフェア-障がい者と共に12年にあった内容に、ほとんどかぶるのです。それをリライトして圧縮して、この記事になったように見えます。ですが、よく見ると、そのオリジナルには見あたらない、こちらの記事オリジナルの情報もありますので、単なるリライトではありません。

ひとつは、このカフェが使うパン生地の開発者です。銀座経済新聞には、「小倉理事長は障がい者の自立のために月給10万円以上を支払えるよう、タカギベーカリー(広島県広島市)の当時の社長だった高木誠一さんの協力を得て、同社が独自に開発した冷凍パン生地を使い、障がい者でもパンが焼ける方法を生み出した。」とあります。「アンデルセン」や「リトルマーメイド」で知られる、タカキベーカリーが開発者です。一方、フィールドプロモーションニュースでは、「故・小倉昌男同財団初代理事長が障がい者の自立のために冷凍パン生地を独自に開発し、障がい者でもパンが焼ける方法を確立した。」、つまり開発者は小倉昌男、運送業ひとすじの男が独自開発したことになっています。小倉が、後から美談がつくられることもありそうな傑物だからというわけではありませんが、私の知る限りでは、銀座経済新聞のほうが正しい起源だと思います。

もうひとつは、いばらキッスを使うメニューの位置づけです。銀座経済新聞には、「今年は初めて仕入れる品種『いばらキッス』を使ったスイーツメニューを提供する予定。鈴木さんは「『いばらキッス』は、サイズはまちまちだが肉質が柔らかで甘味が強くジューシー」と話す。」とあります。一方、フィールドプロモーションニュースは、「このフェアは今年で4回目となるが、今年初めて仕入れる品種、『いばらキッス』を使ったスイーツメニューが今回の目玉だ。」、目玉メニューに位置づけます。銀座経済新聞には、そのメニューの写真もありますが、キャプションにも目玉だと書いてはいませんし、目玉のかたちをしたメニューでもありません。すると、真実はどちらにあるのか、興味をもつ方も出るかもしれませんが、両者は相互排他的な関係ではありません。銀座経済新聞は、目玉メニューではないと書いたわけではありませんので、もし目玉メニューであったら、どちらにもうそはなく、目玉メニューでなかったら、フィールドプロモーションニュースがうそを報じたことになります。心情的には、目玉であってほしいと思います。いばらキッスは、あいかわらず茨城らしいセンスのネーミングですが、目玉に取りあげてもらえるならありがたいことです。また、愛の貧乏脱出大作戦ではありませんが、何かひとつ、飛びぬけた看板メニューがつくれれば、後まで安心でしょう。ええもんひとつ とびきり屋見立て帖(山本兼一作、文藝春秋)の、真之介とゆずとが善右衛門から教わってあった、「ええもんひとつ」の思想にもやや近いところがあります。きょう、その作者である山本が亡くなりました。ご冥福をいのります。