生駒 忍

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パレートの法則と「2・6・2の法則」との往復

きょう、dot.に、あなたはどれ? 職場の女性に「2・6・2の法則」という記事が出ました。AERA 12月16日号(朝日新聞出版)からの転載で、中づりでは「ワーママ格差の絶望」と大書されていた企画からの抜粋です。

AERAでよくある、おとなの集団や階層の内部にある意識のずれを、意識が高いと思っていそうな側が共感する方向からあぶり出すものの一環です。積極的には攻撃に出ず、ですが自殺(末井昭著、朝日出版社)ほどには淡々とせず、わりきりや笑いたおしにも走りません。そういえば、3か月ほど前に新田哲史が、アゴラに“SPA化”するAERAの残念な件という記事を書いていました。

最後の段落で、「2・6・2」の法則が登場します。ここでは、経産省の坂本里和が提唱者であるような誤解をまねく書き方になっていますが、「職場の女性には」という限定にオリジナリティがある可能性をのぞくと、法則自体はビジネス書ではおなじみのものです。直接の初出を私は特定できていないのですが、社会生物学の古典的知見や、パレートの法則からの連想を、経験的な感覚と組みあわせたもののようです。プロ野球1リーグ化論争にこれを持ちだした横澤彪の吉本探訪記 其の伍(キューズ)など、冒険的な応用も多く見られます。パレートの法則の通俗化もさまざまで、王様の速読術(斉藤英治著、三笠書房)は、この法則を当てはめて、本のほんの2割を読めばそこの情報の8割が得られると主張しています。なお、この本は、パレートの法則が1897年に富の所有の法則として発見されたように書いていますが、誤りです。

ここではその法則が、通俗化したパレートの法則へと戻る方向に向かいます。2・6・2の中間層である6は、よくも悪くもない無難な多数派として、あまり関心を向けられないことも多いのですが、この記事では、どちら側にでも移動できる階層として理解した上で、上ではなく下の2割へ合流してしまうと論じています。つまり、現実には「ちょこバリ」はなり立たず、「動揺層」はくずれて2・8にいたるということです。すると、3分類にした坂本の主張は、わずか3文後にくずれてしまうわけですが、これでよかったのでしょうか。意識が高いAERA読者に見えていそうな、意識が低いのは2割ではなく8割という、何とも殺伐とした光景が頭にうかびます。そういえば、同じ2・6・2の法則でも、レインボーチルドレン(滝沢泰平著、ヒカルランド)によれば、マヤやアステカの人々はこの法則を受けいれて、さぼる人々を気にしないことで丸くやっていたのだそうです。