きょう、msn産経ニュースに、【難病の現実】(上)注射1本130万円…小さな体に重すぎる負担という記事が出ました。4月の障害者総合支援法施行に続く、難病支援の拡充のうごきを前にしての、意義のある記事だと思いますが、ほかではめったに知る機会がない病気が話題だからこそ、よりきちんとしているとよかったと思います。
タイトルから、あまりよくないように思います。まず、本文は「朝起きるとまず最初にすることは、まだ3歳にもならないわが子に注射を打つことだった。」と書き出されますので、次の段落に進むまでは、130万円の薬剤を毎日のように注射しているのかと、誤解してしまいます。また、「重すぎる負担」は経済的負担を指していると考えられますが、「小さな体に」ということは、小3児童の症例のことでしょう。子ども自身が「小さな体」で費用を負うには重い、あるいは相手が子どもなのにこんなにお金をとるなんてと親は不満顔だという主張の記事ではないので、内容とずれたイメージを持たせる対比になってしまっているように思います。
この記事であつかわれるCAPSが、「患者は全国でも50人ほど。」とあるのは、できればいつ、どこの機関がとった統計かを添えてほしかったところです。ミクスOnlineの記事、ノバルティス 希少難病CAPSの治療薬イラリスを新発売には、「国内患者数は30人未満とされ」とありますので、それから2年もしないうちに、倍近い数が出てくるのは奇妙に思えます。
CAPSの発症メカニズムが、「ウイルスや細菌に対抗すべき免疫が過剰に働いて自分を攻撃」と説明されるのは、誤解をまねくように思います。この説明では、鑑別が求められる自己免疫疾患のほうのようにも読めます。また、免疫系が免疫系にかみついてウロボロスのようになってしまう「自分を攻撃」でもありません。
患児について「病院中が『立った』と大騒ぎ」というエピソードには、アルプスの少女ハイジ(高畑勲監督)を連想した方もいるでしょう。私は、手続き記憶の持続性を思い出しました。自転車、水泳、スキーなどが例として使われますが、このような症例もまた、持続性の証拠になりそうです。なお、発達の成熟説の古典である、二足歩行についてのゲゼルの双生児研究の知見にやや似ても見えますが、この患児は1歳すぎに発症したということは、つかまり立ちはいったん達成できているはずで、だからこそ手続き記憶となります。
一般名を書かずに「イラリス」とだけある新薬について、「1日1回の投与が必要だったアナキンラに対し、イラリスはおおむね1カ月に1回で済む。ただ、患者が少なく薬の希少性が高いため、1回の注射にかかる費用は約130万円。」とあるのは、誰がどこで受ける場合の数値なのかを書いてほしかったところです。新医薬品の薬価算定について 11-11-注-4では、「通常、体重40kg以下の患者には1回2mg/kgを、体重40kgを超える患者には1回150mgを8週毎に皮下投与。」となっています。薬価基準が1びん150mgで1435880円で、ミクスOnlineの記事、希少難病・CAPS薬イラリスの薬価収載了承 25日収載へ 患者側は高額な薬剤費に懸念が「標準用量で薬剤費は年間約860万円。」と算出しているのは、2か月に一度の投与とみて6をかけた数値と思われます。msn産経の記事では、注射料18点などを足しているのかも、よくわかりません。そして、保険診療の基礎知識がある人向けの記事ではないので、「高額療養費制度が使える」のひと言で流さずに、この制度でどこまで減額されるか、たとえば一般の多数該当で介護保険不使用、ほかに医療費がかかっていないとした場合の試算があると、なおよかったと思います。
後のほうで、患者・家族会代表の戸根川聡という人が登場します。厚労省が自分たちの陳情にこたえないことに、不公平感や悲しみを感じているようです。ですが、厚労省が何もしていないかのような誤解をまねきそうなのが、心配です。またミクスOnlineですが、希少難病CAPS治療薬カナキヌマブが薬食審第二部会で審議へ 8月25日という記事にあるように、イラリスには「「CAPS患者・家族の会」が国内で使えるよう厚生労働省に要請して」、厚労省がノバルティスファーマにかけあった経緯があります。また、年度によって異なる疾患名であつかわれていてわかりにくいのですが、CAPSは難治性疾患研究班情報(研究奨励分野)に毎年度とも入るようになっていますので、すでに国の難病対策の対象です。記事で「国が難病とする56疾患」とあるのは、「手厚い支援があった」と過去形にされているのはともかくとしても、それとは別の特定疾患治療研究事業の対象のことです。最後にあるように、「厚労省は27年1月の導入に向け、新制度の法制化を急いで」いて、そこでは医療費助成の対象候補が300疾患程度へと広がり、CAPSも該当すると思われるほか、自己負担率の低減や、「京都府の患者」のような世帯内に複数いる場合の特例も加わる方向です。そして、今回の記事では批判的な戸根川代表は、ほぼ1か月前に、同じくmsn産経ニュースの記事、不公平感ようやく緩和、厚労省の難病新制度案 パーキンソン病は外れる可能性もでは、新制度を知って歓迎の意を表明しているのです。それが、こちらではまるで手のひらを返して、厚労省は何も動かないと言っているかのようにされています。どちらも同じ記者が書いたのでしょうか。あるいは、ないとは思いますが、一度の取材の中から、ポジティブな発言とネガティブな発言とを切りわけて、方向性の異なる両記事へ切り貼りしたりはしていないでしょうか。