生駒 忍

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障害者虐待で半年に3人が死亡したのでしょうか

きょう、厚生労働省が、平成24年度 都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)を発表しました。「平成24年度」とついていますが、6月に発表された「使用者による障害者虐待の状況等」についてと同様に、障害者虐待防止法の施行からの半年分の調査結果となっています。

わが国の主要な報道機関すべてが、これをニュースにしました。ですが、数値の出し方に相違があり、混乱をまねきかねない状況になっています。

こういったものでは、把握された数が基本情報として重要ですので、どこの記事もタイトルに入れていますが、ここが各社でまちまちです。読売朝日毎日日経時事通信は件数を、産経NHKは人数を入れました。読売の「1500件」とNHKの「1700人」は概数で、ほかは正確な数です。朝日、毎日は1524件で、日経、時事通信は1391件とへだたりがありますが、これは6月発表の障害者虐待防止法4章に関するものと合算するか、きょうの発表の数値にするかの違いです。人数でも、NHKと産経との違いはそこです。

今回の発表のうち、どの数値を記事中で取りあげるかにも、各社で判断が分かれています。NHKのみ、上位の都道府県を挙げていて、大阪の突出ぶりを明らかにしています。

また、死亡者数に触れたのは読売、朝日、日経、産経ですが、前2者は3人、後2者は2人としています。使用者による虐待での死亡報告はないので、これは合算の有無とは関係ありません。そこで、厚労省の発表を確認すると、きょうの発表の参考資料1では、「死亡事例: 3人」に注がつき、「うち1件は、心中事件により発覚した事例のため、1,311件には含まれていない。」とあります。一方で、参考資料3には、「養護者からの虐待等により被虐待者が死亡した事例」として「3件の事例(被害者3人)が報告された」とあり、報道で人数が分かれた理由が見えてきましたが、つまりは厚労省の発表に矛盾があったのだと思った人もいるかもしれません。ですが、おそらくここは、参考資料3では虐待「等」による死亡事例を扱ったために、心中も数に含めたということだと思います。

そこで、各社の表現を確認してみましょう。朝日は、「1311件(被害者は1329人)」に続けて「うち3人は死亡に至った。」と書いていて、1311件にこの3人が含まれるという誤った記事になっています。読売では「家族や親族らによる虐待が8割を超え、3人が死亡していた。」となっていて、これならうそではありません。日経は、「1329人が虐待を受け、被害者が死亡したケースも2件あった。」と書いていて、心中を除いています。産経はていねいで、「死亡例はいずれも家庭内であり、殺人と致死事件が1件ずつ。心中事件で発覚したため1311件に含まれない死亡も1件あった。」とまで説明されれば安心です。そういえば、THE21 2013年12月号(PHP研究所)には、「さとり世代」にはこと細かに説明したほうが不安に思われないというお話がありました。