少し前のことになりますが、毎日新聞の京築版に、山本紀子という記者が、児童発達相談センター: 行橋に開設 臨床心理士ら、平日は毎日対応という記事を書きました。相談援助の場が増えるのは、とてもうれしいことですし、こうして周知されるのも、ありがたいことです。ですが、この記事には、やや適切でないところもあります。
冒頭から、「落ち着きがなくパニックになりやすい子供などの発達相談と診察」の場という書かれ方がされていて、例示としてまちがいではありませんが、かたよったイメージを持たせてしまうかもしれません。また、「当事者はこれまで、他市の病院に足を延ばすか、保健所での月1回の往診を待つしか」という表現は、大辞林 第三版(三省堂)がとった「足を伸ばす」という表記ではないことは気にしなくてよいと思いますが、「足を延ばす」という慣用句はふつう、どこかに外出をしたときに、その行き先からさらにもうひと息という場合に使うものでしょう。すると、近所の専門外の病院に行ってから、出なおさずに直接、「他市の病院」へと移動するということになります。もちろん、他を紹介されて、矢も楯もたまらず直行する方もいるでしょうし、子どものためを思って一刻も早くという気持ちを否定するつもりはありませんが、帰宅せずに直接移動をしないと、あとは保健所の往診以外にありえないのでしょうか。いったんは帰って、じっくり考えたり家族と相談してからにしたり、最初から「他市の病院」へ直接行ったりする方も、認めてほしいです。
そして、「発達障害の子は、国の調査で小中学校に6・5%いる可能性が指摘されている。」です。これは、文科省が昨年に調査して発表した、通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果についてのことでしょう。今回にかぎらず、たびたび報道等に使われていますが、しばしば、数値のひとり歩きのようになってしまうものです。まず、あの調査は、「全国(岩手、宮城、福島の3県を除く)の公立の小・中学校の通常の学級に在籍する児童生徒を母集団とする。」というものです。私学はまったく入っていませんし、それ以上に注意すべきなのは、文書のタイトルに「通常の学級に在籍する」とあるところで気づいてよいはずなのですが、特別支援学級ははずされていることです。また、これももう、タイトルにもあることなのですが、「本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合を示す」ところを、「特別な教育的支援を必要とする」面はとばして、「発達障害の可能性」だけにされがちなところも、批判的にみられることがあります。さらに、報告書は、推定値だけでなく、その95%信頼区間への留意も求めているのですが、これはさすがに、一般紙ではむずかしいと思います。心理学者の世界でも、信頼区間を理解できていない人がほぼ一掃されたのは、伝えるための心理統計(大久保街亜・岡田謙介著、勁草書房)が出てからだと言ったら、さすがに言いすぎでしょうか。
なお、このセンターについては、行橋市のウェブサイトにある、行橋京都児童発達相談センター「ポルト」の開設につてでも知ることができます。FAX番号など、記事中にはない情報もあります。