生駒 忍

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安全よりプライバシーを要求する人々と監視性

きょう、Forbes日本版に、イギリスに学ぶ、犯罪を減らすまちづくりという記事が出ました。

「03年から13年までの10年間で窃盗を約100万件減らして半減させ、誘拐も3,125件から1,727件へと激減させたのがイギリス」、「背景にあるのが「犯罪機会論」による対策」だという話題です。おどろくべき効果があると思われますが、実はわが国は、そのさらに上を行きます。平成27年版 犯罪白書(日経印刷)のCD-ROMのデータを見ると、2003年の窃盗の認知件数は2235844件、2013年は981233件ですので、「約100万件減らして半減させ」という表現でも足りないくらいなのです。

「1997年にイギリス首相に就任したトニー・ブレアが最初に成立させた法律「犯罪及び秩序違反法」は犯罪機会論によるものだった。」とあります。もちろん、そのCrime and Disorder Act 1998よりも前に、Social Security Act 1998など、さまざまな法律ができていますので、誤解しないようにしてください。

「例えば、「犯罪者が嫌がる公園づくり」。」、「団地を建てる際には、建物の囲みの中に庭をつくり、その庭を常に誰かが見ているような部屋の間取りに」、賛同しますでしょうか。「それに比べれば、例えば日本の団地内公園は、窓のない壁側に設けられるケースが多い。」とあり、皆さんの身のまわりや、もしかすると住んでいるところも、そうかもしれません。子どもはどこで犯罪にあっているか 犯罪空間の実情・要因・対策(中村攻著、晶文社)の図25、27、60、そして「どうしてこんな配置になるのだろう。」とまで書かれた図26、「まるで暗い穴蔵である。」と表現された94ページの写真のようなところは、ありませんでしょうか。しかも、窓側だからといって安全とはかぎらず、この本には、「その豆つぶのような各住戸は、公園に表側(主に南面)を向けた住戸ですらしっかりとベランダに目隠しをつけ、そこで生活する人々の姿を見ることはできません。高層集合住宅の建ちならぶ団地では、人々は極端なまでにプライバシーを要求するのでしょうか。」という事例も、写真つきで登場します。

「犯罪機会論は、人が入りやすい場所か入りにくい場所か、また周囲から見えやすい場所か見えにくい場所かという領域性と監視性を軸に考えます。」、これは「立正大学文学部社会学科教授の小宮信夫」の説明のようです。「領域性と監視性」というキーワードは、犯罪機会論そのもののものというよりは、その中の「守りやすい空間」理論、CPTED、SP7原則といった考え方の要素と理解するほうが、より自然であるように思います。

「犯罪が起きるのは、自転車やゴミが放置されたままだったり、周囲の家からの死角が多く、さらに空き家の窓ガラスが割れたままのような場所が多い。」とします。おなじみ、割れ窓理論の考え方につながります。先ほどの子どもはどこで犯罪にあっているかでは、「汚い公園」や、「一般市街地の事例1」に、この視点がうかがえます。

「逆に、地域が連帯しているようなエリアでは、悪の芽は摘み取られています」とあります。大げさなと思ったかもしれませんが、「連帯」といえるほどの地域力があれば、安心でしょう。そういえば、New York Postのウェブサイトにきょう出た記事、The documents that show Lech Walesa was a ratは、「連帯」の英雄のみにくい過去を明かしましたが、どうなりますでしょうか。玉ねぎの皮をむきながら(G. グラス著、集英社)の衝撃を超えるか、野坂参三になってしまうか、先は見えません。