生駒 忍

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天正遣欧少年使節の目撃談の出典

週刊新潮に、「変見自在」という連載があります。いつもずっと後ろのページで、よいイメージを持つ人も多い対象を取りあげて、皮肉をきかせながらこき下ろす、名物コラムです。ファンも多いようで、私も感心させられたりもしますが、ついていけない記述もめずらしくありません。もちろん、あえてあまのじゃくな態度や、過激な立ち位置をとってみせたり、あの字数の中でのわかりやすさを優先して単純化したりしていることも、あるのかもしれません。それでも、載せてよかったのか疑問に思うようなものも、見かけることがあります。

先週に出た3月7日号では、キリスト教や宣教師の非道を並べたてていました。このテーマは、このコラムでは何度も登場してきたもののひとつで、単行本シリーズの最新刊である変見自在 日本よ、カダフィ大佐に学べ(髙山正之著、新潮社)にも出てきています。この回でも、いつもの書きぶりで、秀吉のバテレン追放、島原の乱から、GHQの占領統治までが並びます。

ですが、バテレン追放につながるできごととして、天正遣欧少年使節によるという、日本人女性がヨーロッパで秘所まるだしで売られるという報告がでてきます。これはとてもショッキングで、信じられない方もいると思いますが、だからこそ、うたがってみるべきと思った方もいるでしょう。著者が高齢だとはいっても、秘所といういまではなかなか見かけないことばに、引っかかりを感じた方もいるかもしれません。ご存じの方も多いと思いますが、これは7年ほど前に、ネット上でしばらく話題になったもので、当時の議論は、一次史料がたどれず確認できないというところで落ちついたはずです。キリシタンの子孫だという方のブログに書かれたのが発端ですが、実は孫引きどころではない状態で、そこで示された出典は天皇のロザリオ 下巻(鬼塚英昭著、成甲書房)、そこでの出典はウサギたちが渡った断魂橋 上(山田盟子著、新日本出版社)のどちらかのようで、さらにそこでの出典は「有馬のオランダ教科書」という文書で、そこに原マルティノを思わせる「マルテー」という人物の発言として載っているそうなのですが、この教科書が結局わからないというところで行きづまったのだったと思います。

ところが、そのような議論とは別に、この話はあちこちにコピペで広まっていき、信じた人がさらに広める展開にもなっているようです。試しに、「肌白くみめよき」を検索してみてください。その点では、こちらはポジティブな話ですが、「ひうらさんの思い出」などにも似ています。そして、このコラムは、それを紙の上にひろったもののようにも思われます。よく知られた雑誌に載ったことで、いわゆるソースロンダリングのような状態にもなりますし、ネット上の情報にふれる機会の少ない読者が、確定的な史実ととる可能性もあるのが、不安なところです。もちろん、ネット上で広まったものとは無関係に、「有馬のオランダ教科書」にあたる文書や、あるいは同じことを記した別の原典にあたって書いた可能性もあるのですが、どうでしょうか。