生駒 忍

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刑務所に入るための人質強要と発想の貧困

きょう、毎日新聞のウェブサイトに、九州道バスジャック:冒頭陳述「刑務所に入りたい」が動機という記事が出ました。

「検察側は冒頭陳述で、事件前に入所先のグループホーム職員から無駄遣いを注意されて所持金を預けたことなどから自暴自棄になり「刑務所に入りたい」と思い、事件を起こしたと指摘。」したそうで、いろいろと気になりました。きょうはちょうど、平成25年度 都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)が発表され、広く報道されましたので、所持金あずかりは経済的虐待だ、施設は悪、などと感じた人もいるかもしれません。そう信じるのでしたら、きちんと調べて、障害者虐待防止法16条の出番を考えてください。ですが、一般に、身体障害ではない障害をかかえた人にとって、お金の管理は、外から思うよりもずっとむずかしいものです。最貧困女子(鈴木大介著、幻冬舎)が、入るお金よりも、その使い方、くらし方、金銭感覚で、「プア充」にも「最貧困」にもなることを明かしたことも、参考になるでしょう。その「最貧困」は、知的障害と関連づけられていました。また、努力不要論(中野信子著、フォレスト出版)は、「だから、格差社会だ、ワーキングプアだと騒いでいる人たち、あるいは当人は、実際に貧困だというよりも、発想力が貧困なのではないでしょうか。」と指摘しています。

「「刑務所に入りたい」と思い」とありますが、ホームレスが屋根のあるくらしを求めてではなく、グループホームがあるのに、人質を取る凶悪犯罪へ走ったのでした。入居型の福祉施設を、刑務所のようだと表現する利用者のお話は、私も聞いたことがありますが、刑務所はきびしい規律がある刑罰の場ですので、乗りかえてしまおうというのは、発想の貧困のように思います。それでも、口だけではなかったところは、評価すべきでしょうか。Chosun Onlineにきょう出た記事、【記者手帳】韓国の従北主義者はなぜ北で暮らさないのかを連想しました。

犯行動機はそういうことで、「自暴自棄」と書けばそうなった本人に問題が帰属されますが、何の関係もない何十人もの人質に恐怖を与えておきながら、元はといえば自分も被害者だと言いたげな印象も受けます。PRESIDENT Onlineにきのう出た記事、なぜ、ごく普通の人が過激な書き込みをするのかで取りあげられた、スマイリーキクチのネット中傷被害事件に似たところを感じました。足立区で四半世紀前に起きた極悪非道な凶悪犯罪を、「地域も年齢もさまざまな人びとが」無関係なお笑い芸人に結びつけ、中傷をくり広げた事件です。19人もが次々に摘発されましたが、「『仕事のストレス』、『人間関係の悩み』、『離婚をして辛かった』、『私生活がうまくいかず、ムシャクシャしてやった』と被害者意識にすり変わって」いたそうです。まるで、いじわるばあさん 4(長谷川町子作、朝日新聞出版)の66ページのように、ものだけでなく感情でも、自分が不快になった穴うめは、無関係な他人を不快にさせて、相対的に「快」をうばうことで、満たせるでしょうか。ふと、氷の仮面(塩田武士作、新潮社)の6章冒頭の、オリンピックのクレーム電話を思い出しました。