生駒 忍

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子どもを苦手だと感じるおとなの心理学

きょう、マイナビウーマンに、本音はウザイ…あなたが「子ども嫌い」になってしまった理由3つという記事が出ました。元カウンセラーでいまは無料相談を受けつけている、しゅうまいという人を取材したものです。

その元カウンセラーが挙げた「子ども嫌いの人の心理状態」が列挙されています。ですが、この3件を横ならびであつかうのは、やや奇妙に思えます。1と3は、子どもの子どもらしいところを苦手に感じる直接の原因です。一方、2は、これまでの一般的な人生経験で、説明を見ても、子どもとのつながりはまったく書かれていないので、ここで出てくる理由が見えにくく感じます。単に、人間関係でうまくいかない人は、たいてい誰とでもうまくいかないので子どもともうまくいかない、という程度のことなのでしょうか。それとも、1で挙げた合理的な人を、自覚したりほかの人から見わけやすくしたりするための、具体的な指標を示したかったのでしょうか。

それでも、少なくとも自閉症的な傾向のある人が、次元のずれたこれらに広くあてはまりやすいように感じるところはあります。生き方としては合理的になれず不合理だという見方もあると思いますが、ルールや正しさを通そうとする、他者とあわせられない、通状況的一貫性のある人間関係の問題、うるさくさわがれるのが苦手、といったところです。「自分は許されなかったのに他人は許される」のも、そういう人が根にもちそうなテーマです。

1にある、「子どもは非合理的で、無条件で誰でも信用します。」というのは、おとなと比べてそういう傾向があるということでしたら、そのとおりです。ですが、もちろん無条件で「無条件で誰でも」とまではいきません。乳児のうちに人見知りが始まりますし、応用認知心理学では、子どもの目撃証言での面接者の要因もよく知られています。irorioに1か月ほど前に出た、男のみならず子どもまで!!子どもは美人の言うことを信用するとの米調査結果という論文紹介記事もありました。

さて、冒頭の段落にもどりますが、女性は子どもを好きかどうかは、とても争いになりやすい論点です。また、みんなママのせい? 子育てが苦しくなったら読む本(大日向雅美著、静山社)の実例7のような、自分の子どもは偏愛というパターンも多いですし、人によるというのが無難なところです。連合が6月に結果を発表した、子ども・子育てに関する調査では、子どもがいる人/子どもが欲しい人の、子どもを持った理由/子どもが欲しい理由では、「子どもが好き」は約4割で、男性よりも女性でやや高めですが、子どもを欲しくない人の子どもを欲しくない理由では、「子どもが苦手」は女性のほうが高めになっています。

もちろん、動機や欲求に関してたずねられて出てくる回答の信用性は、心理学者ならある程度警戒するところではあります。また、1か月ほど前にSankei Bizに出た、アテにならない消費者心理 死ぬほど調査した自信作…なぜ売れないという記事もありましたし、日本マクドナルドの原田泳幸が言ったという、「アンケートをとると必ずヘルシーなラップサンドやサラダがほしいと要望があって商品化したけども売れたためしがない。」というお話も知られているでしょう。医療にたかるな(村上智彦著、新潮社)での、市民のウォンツにふり回されてはいけないという、破綻自治体からの提言もあります。子育て関係でも同じようなことはありそうで、黒川滋という政治家のブログの、子どもが嫌いな社会人たちという記事は、漫然と「お金がかかるから」が選ばれやすく、子どもがきらいだという思いを表面化させない少子化調査を批判しています。

そのあたりに関して触れた、なぜ「他人の眼」が気になるのか(依田明著、PHP研究所)を紹介しておきましょう。四半世紀も前、「母性神話」もあたりまえだった時代に書かれた本が、Kindle版で復刊しました。そこでは、子どもが好きではないと思っても、それは世の中のたてまえに反するので、ひとりっ子の母親は別の理由を口に出すのだと指摘されています。子どもが0ではなく1のところを論じているのが、まだ昭和の時代らしいところです。そして、「生もうと思えば何人でも生めるのに、ひとりしか生まない母親は子どもや育児が嫌いなのである。子どもよりも自分が大切なのである。母親であるよりも、女性としてありたいという気持ちが強いのである。」と結論します。最後は、「こういう女性は今後増加していくものと思われる。」と書いて締めています。著者のこの予測は当たったでしょうか、興味のある方は、いろいろな角度から調べてみてください。